最高裁判所第二小法廷 昭和57年(行ツ)21号 判決 1982年5月28日
和歌山市黒田一二番地
上告人
株式会社東洋精米機製作所
右代表者代表取締役
雑賀和男
右訴訟代理人弁護士
澤田脩
藤田正隆
和歌山市湊通丁北一丁目一番地
被上告人
和歌山税務署長
木村富
右指定代理人
山田雅夫
右当事者間の大阪高等裁判所昭和五六年(行コ)第四一号法人税確定申告期限延長申請却下処分取消請求事件について、同裁判所が昭和五六年一一月二七日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人澤田脩、同藤田正隆の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。
よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 宮崎一 裁判官 木下忠良 裁判官 監野宜慶 裁判官 大橋進)
(昭和五七年(行ツ)第二一号 上告人 株式会社東洋精米機製作所)
上告代理人澤田脩、同藤田正隆の上告理由
原判決は上告人の昭和五三年度分(昭和五三年四月一日から昭和五四年三月三一日までの事業年度分、以下これに準じる)法人税確定申告の延長申請について、やむを得ない事由により決算が確定しないと認めることができないとして、右申請を却下した被上告人の処分を是認した第一審判決を支持している。しかし、右認定には次に述べる違法があり破棄を免れない。
一 第一審判決は上告人の昭和四七・四八年度分につきそれぞれ昭和四七年度分については「仮申告書」、昭和四八年度分については「確定申告書」と題する書面が被上告人宛に提出されており、右両書面には法人税法施行規則別表に定める書式を用い且つ同規則に定める記載要領に従い法人税確定申告として必要な全てが記載されていること、右は無題ノートを資料とすることなくなされているから、昭和五三年度の決算が確定しえないものと認めることができない、という(第一審判決九枚目表から一〇枚目裏)。そして原判決は、右両年度の申告書の提出が確定申告の意思のないものであつたということはできない。というのである(原判決三枚目裏)。
二 しかし、一審並びに原判決の判断には次に述べるとおり理由不備、理由齟齬の違法がある。即ち、上告人は一審以来、手許にある資料のみでは到底概算であつても決算できる状況にはなく、決算は不可能であつた旨主張・立証を尽してきたのであり、とりわけ和歌山地方検察庁に保管されているはずの「無題ノート」は上告人と財団法人雑賀技術研究所および雑賀慶二との継続的な特許料支払等に関する取決めが記載されており、右ノートが閲覧しえない状況では昭和四七・四八年分の重要な債権・債務が確定せず、従つて決算確定はおよそ不可能である旨強調し、且つこれに副う立証をしてきたのである。にももかかわらず、一審並びに原判決は昭和四七・四八年度に関し、肝腎の「無題ノート」そのものの問題に触れることなく、ただ、「仮申告書」にしろ、「確定申告書」にしろ、一応形式的な体裁の整つた書面の提出さえあれば、これをもつて確定申告がなされたと結論するのに欠けるところがないというのである。それらがいかなる経過で提出され、いかなる内容であつたかは問題とならないかのごとくであつて、右書面の提出をもつて適式な確定申告であるとの結論を導くためのまことに強引な判断であるというべく、到底納得することができない。
三 右「仮申告書」「確定申告書」が提出された経過、一審判決に対する批判、上告人が雑賀慶二との間で再協議をしていること等については、原審での上告人昭和五六年一〇月一四日付準備書面に詳述するところであるので、それをそのままここに引用する。
四 ところで、これまで右無題ノートについて上告人から照会する度に所在捜索中である旨繰返してきた和歌山地方検察庁は最近の昭和五六年一二月三日になつて、漸く同庁次席検事から上告人に対し、口頭で、右「無題ノート」は捜索の結果紛失した旨陳謝してきた。そこで、上告人は、その際、右捜索の経過並びに結果について書面で明らかにされるよう要望し、同検事はこれを了承され、どのような方法でするか検討する旨述べられたまま今日に至つている。
上告人の決算並びに申告について、右和歌山地検の長期間に亘る無題ノートの有無に関する曖昧な態度が重大な影響を及ぼしてきたことは明らかである。これが私人であれば右のような態度は許されたであろうか。国家機関殊に検察庁であれば、許されるということにはならないはずである。しかも、そのことによるしわ寄せは独り上告人が負わなければならないというのはまことに矛盾だといわなければならない。納税者に申告義務を課する以上は、その申告義務の履行に障害となる原因を招来した国家機関が先ず、その原因をいち早く解消してこそ、右申告義務を肯定することになるのではなかろうか。主権在民、自主申告制度もかようにしてはじめて理解できる。
一審並びに原審判決はこの点においても、本件の問題を正当に理解せず、理由不備のそしりを免れない。
以上